
人間として生きていくことは、ことばを話したり聞いたりすることと、分かちがたく結びついています。ことばは、人間が持つ最も重要なシンボルの一つです。しかし、または、だからこそ、私たちは、ことばをあらためて意識して考え直すことを行いません。それほどまでに、ことばは私たちの心と体の奥深くに入り込んでいるのです。
しかし、そうしたことばを、あらためて意識しなおす場合が時々あります。たとえば、外国語と母語を比較した場合や、今までに聞いたことのない方言に出会った時、更には、昔のことばと出会った時などです。また、同じことばを使っているのに、他人に意志が伝わらなかった時や、敬語などのことばづかいに戸惑ったりした場合も、ことばと向き合うチャンスになります。
国語学(日本語学)とは、ふだん当たり前のものとして使っていることば(私たちの場合は日本語)を相手にして、その形や音、意味のしくみや歴史、使われている有り様などを探る学問です。たとえば、国語学では、次のようなことを研究しています。
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「背中かいてくれ」「ここ?」「そう、そこ」などのコ、ソ、アなどはどのように使い分けられているのか。
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「石焼きイモ、有田焼き、炭焼き職人、卵焼き」。同じ「焼き」でも、これらはどう違うだろうか。
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「高橋が入った巨人」「高橋が入った喜び」。このふたつは似た仕組みだけど、どう違うのか。
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「今日、麩の味噌汁」と「恐怖の味噌汁」は何によって区別されるのか。
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「しおからい」「からい」「しょっぱい」などの全国的な分布はどうなっているだろうか。
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仮名遣いの歴史はどうなっているか。
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日本では、漢字をどのように受け入れてきたか。
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明治時代に新しく作られたことばには、どんなものがあるか。
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「やさし(い)」という語は、どのように変化してきたか。
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「源氏物語」と「徒然草」のことばはどう違うか。
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方言に対して、現代人はどんな意識を持っているか。
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会社の中で、ことばはどのように使われているか。
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などなど。まだまだ、たくさんあります。このように、国語学の研究の観点と対象・領域は多岐にわたります。この広がりと奥行きは、ことばそのものが持つ広がりと奥行きの反映に、ほかなりません。
近年、「言語」は、あらゆる分野で重要なキーワードとなっています。 言語に対する関心は、人間、つまり、自分たちに対する関心です。言語は、単なる手段であるというより、私たちの基盤であり、出発点なのです。言語、特に日本語の、上で述べたような有り様や問題に興味のある方は、国語学を学んでみてはどうでしょうか。
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